アミカン・トーレン氏について

エステティック・ライフ – オートマチック展では『ROME automatic』という「本」の作品で参加するアミカン・トーレン (Amikam Toren 1945~ )は、今回が日本で初めての展示となります。

アミカン・トーレンは今から20年以上前、私(平田)がイギリスの大学で絵画を学んでいたときの恩師でした。60年代終わりにイスラエルから渡英しアーティストとしての道を歩み始め、初期の代表作の一つである「絵でもなく、椅子でもない」という10枚のキャンバスに描かれた椅子の絵と、その前に置かれた骨のように細くなった一脚の椅子からなる作品は、実際には削り取られた椅子の木屑をメディウムとして描かれたという衝撃的なものでした。また、1984年から蚤の市などで購入した絵画に直接鋭利な刃物で文字を切り取り、自らの作品として発表する「アームチェア・ペインティング」他、カテゴリーとしての絵画を挑発する氏の作品は、イギリスにおいて現代絵画の問題が話題に上る時にはしばしば言及されてきました。以来絵画のみならず立体、ビデオアートなど、表現の可能性を追求する作品群は、時にトートロジカルなユーモアを携えながらも、破壊を伴う喪失の概念が表出しており、見るものに底知れぬ深い謎を残してきました。

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90年代当時のイギリスは景気の低迷が続き政治的にも転換期にあり、美術界ではデミアン・ハーストを中心とする若い作家たち、YBAs( Young British Artists )がイギリス美術の刷新を求めて、メディアや巨大な資本家を巻き込んで非常に勢いがあった時代でした。しかし、その傍らで地道に独自の探求を続けている優れた作家たちもいました。Toren氏もそんな作家の一人で、近年(遅きに失した感もありますが)ようやくテート・モダンが氏の作品を収蔵し、2013年のテート・ブリテンでの“500 years of British Art”には氏の「アームチェア・ペイング」も展示されました。また昨年アメリカで初の大規模な個展” ‘Of the Times’ and Other Historic Works”がサンフランシスコで開催されました。

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4月の展覧会では、アミカン・トーレンが2009年に3ヶ月間ローマに滞在した時に描いたイタリアン・バロックをモチーフにしたドローイングに、パフォーマンス・アーティストでチェルシー・カレッジ・オブ・アーツでも教鞭をとる傍ら詩や散文の執筆もするピーター・スティックランド(Peter Stickland)がインスパイアされ、古代ローマの詩人オウディウス「変身物語」のカエサル暗殺の前兆の部分(巻15「カエサルの神化とアウグストゥス」)の抜粋もとに新たな散文を並走させ、ローマという空間を軸に「過去と現在」「言葉とドローイング」がバロックの唸りのように絡み合う書物『ROME automatic』(2012年出版)を、「作品」として展示します。

4月のエステティック・ライフ – オートマチック展をどうぞお楽しみに。