“ROME automatic” – Amikam Toren / Peter Stickland
より健全なコラージュは自動装置(オートマチック)を微調整し、昏睡状態のシュルレアリストたちを誉めそやす。新鮮な遊びは、取っ散らかっては押し退けあうブンブンとうるさい奴らを踏み越える。愚かな見解は理論的に折り畳まれる。
幸福な作品たちは正統な凡庸さの勝者を機械的に称賛し、不器用に書かれた宣誓供述書をもって、自惚れにとどめを刺す無口な調停をさっさと整理してしまう。
断固たる口調で書かれた招待状が、貞淑なシュルレアリストたちのいる高潔な連盟に発送される。バイク便の運転手は無用な風船を膨れ上がらせ、視覚がバラけた先を火花を散らすコラージュの数々に括り付けようと主張する。
巨大な騒ぎは続いて起こる。くだらない含蓄だらけのチンピラまがいの態度を拝借し、視覚的な有益性が真理を放逐してしまう。頭の切れる泥棒は、自分をさらけ出すにはいまだ内気すぎる人々の裏をかく。
リタイヤのせまる形而上学者たちは一般原則を10倍に増やし、私たちを絵画の内にとどめて支配するように努める。新たな代役たちは、高尚な芸術作品の埃を払う思慮深いストライキ連中の心を揺さぶる。
Peter Stickland “Automatic” より (訳 平田・中根)
『ROME automatic』(2012年出版)は、アミカン・トーレンが3ヶ月間のローマ滞在期間中に描いたイタリアン・バロックをモチーフとしたオートマチック・ドローイングに、パフォーマンス・アーティストで詩や散文の執筆もするピーター・スティックランドが触発され、新たな散文を並走させた画文集である。スティックランドは古代ローマの詩人オウディウス『変身物語』の「カエサル暗殺」の前兆の部分を抜粋し、オリジナルかつオートマチックな70のテキストからなる言語空間を立ち上げる。ローマを軸として、「過去」と「現在」、「言葉」と「ドローイング」がバロックの唸りのように絡み合う。今回の『エステティック・ライフ – オートマチック』では、この1冊の本を起点に「オートマチック」というキーワードで展覧会を組み立てる試みをする。
アミカン・トーレン Amikam Toren
60年代終わりにイスラエルから渡英しアーティストとしての道を歩み始める。絵画のみならず立体、ビデオアートなど、表現の可能性を追求する作品群は、時にトートロジカルなユーモアを携えながらも、破壊を伴う喪失の概念が表出しており、見るものに底知れぬ深い謎を残す。
90年代当時のイギリスは景気の低迷が続き政治的にも転換期にあり、美術界ではデミアン・ハーストを中心とする若い作家たち、YBAs (Young British Artists) がイギリス美術の刷新を求めて、メディアや巨大な資本家を巻き込んで非常に勢いがあった時代だったが、彼もその傍らで地道に独自の探求を続けている優れた作家の一人である。近年テート・モダンが作品を収蔵し、2013年、アメリカで初の大規模な個展”Of the Times” and Other Historic Worksがサンフランシスコで開催された。
ピーター・スティックランド Peter Stickland
英国建築協会附属建築専門大学(AAスクール)で建築を学んだ後、1976年からパフォーマンス集団The Theatre of Mistakesで活動。英国内外で公演を行う。その傍ら、作家、詩人、インスタレーション・アーティスト、77 booksのエディターなど多才な顔を持つ。また1992年から2013年までチェルシー・カレッジ・オブ・アーツの学科長として教鞭をとる。
作家として18冊の作品を出版しており、小説、叙情詩、他の芸術家とのコラボレーションなど創造的で野心的な著作も多い。その特徴は伝統的な学究的アプローチを避け、むしろコラージュのようにテクスト間を自由に呼吸しながら変換や飛翔を促すことがオリジナルとしての魅力であり喜びであることを示している。
中根 秀夫 Hideo Nakane (企画者)
千葉県出身
1992 年 東京芸術大学美術学部絵画科日本画学科卒業
1993 年 ブリティッシュ・カウンシルの奨学金を取得。渡英
1995 年 The Slade School of Fine Art 大学院絵画科修了 イギリス国内で展覧会に参加。
1996年 帰国後、厚木市文化会館主催の個展、VOCA展97(上野の森美術館)、The London Groupのメンバーとしてロンドンでの展示他、国内外でグループ展等へ参加する。2004年からはGalerie SOL で継続的に個展を開催する。2010年 平田星司との二人展(トキ・アートスペース)、14年 池内晶子との写真展(Café & GalerÍa PARADA)、かみむら泰一(Sax 即興)とのDVD製作など、企画性の強いプロジェクトに携わる。
平田 星司 Seiji Hirata (企画者)
東京生まれ
1992 年 東京理科大学理学部第二部物理科卒業
1994 年 ブライトン大学美術学部絵画科卒業 首席
1996 年 The Slade School of Fine Art 大学院絵画科修了
South Bank photo show 1995 “Home Truth” (Royal Festival Hall) 3席受賞等イギリス国内外で展覧会に参加
1997年帰国後、アートプログラム青梅2009「空間の身振り」(旧青梅織物工業協同組合)他、藍画廊やGalerie SOLなど都内を中心に個展、グループ展多数。14年 倉重光則との二人展(ギャラリー箱 三浦市)。13年には「香港 M+」の企画による国際展「Inflation!」の出品作家(Tam Wai Ping)の制作コーディネーター等も行う。
ウエダ リクオ Rikuo Ueda
大阪生まれ
1973年から3年間、国外を放浪し帰国後美術を始める。1997年に参加したデンマークのアーティストインレジデンスを期に風を使った作品を作り始める。
2000年 Wind drawing / オーフォスクンストフォーリン / デンマーク
2002年 Off-site Projects / IKON / バーミンガッム / イギリス
2008年 Performance and performativity in Japan today / ジュネーブ現代美術センター / スイス
2015年 Hans Platschek-Award 2015 / 授賞 / カールスルーエ / ドイツ 等個展、グループ展多数。
小林 潔史 Kiyoshi Kobayashi
愛媛県松山市生まれ
1988年 東京芸術大学美術学部彫刻科卒業 安宅賞受賞
1990年 東京芸術大学大学院美術研究科修了
1990〜93年 東京芸術大学美術学部彫刻科非常勤講師
約3センチの球体上の世界はワックスで作られた原型から鋳造されたものである。作品は大学院在学中の1989年から94年9月までの5年間ほぼ毎日休みなく制作され、その数は5878個という驚異的な数になった。1994年12月26日逝去。享年30歳。1995年にギャラリー山口(銀座)、2003年にYAMAMOTO gallery(現・山本現代)で追悼・回顧展を開催。
鈴木 智惠 Tomoe Suzuki
東京都出身
2011年 武蔵野美術大学通信教育課程版画コース卒業 卒業制作優秀賞
2012、14年にガレリア・グラフィカbisにて個展。日本版画協会他公募展およびグループ展等に多数参加。現在日本版画協会準会員。
2011年 第88回春陽展・奨励賞
2012年 第8回大野城まどかぴあ版画ビエンナーレ準大賞・大野城市長賞
2013年 第12回南島原市セミナリヨ版画展・長崎県知事賞、アワガミ国際ミニプリント展・優秀賞
2014年 第13回南島原市セミナリヨ現代版画展・長崎県教育委員会賞、第91回春陽展・奨励賞、 第3回FEI PRINT AWARD 大賞、第59回CWAJ現代版画展・選考委員賞、第82回日本版画協会版画展・B部門奨励賞
2015年 第14回南島原市セミナリヨ現代版画展・南島原市文化協会賞と受賞歴多数。
長崎県南島原市ありえコレジヨホール、阿波和紙伝統産業会館に収蔵。