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3. 事務局石塚氏からの回答 1996年4月28日(VOCA展をめぐる経緯について)

梅津 元 様

前略 この度は、推薦委員をお引き受けいただきありがとうございました。ご質問の内容について、本来は実行委員会としてお答えしなければなりませんが、次回実行委員会が6月となりますので、展覧会を担当する1事務局員としての回答となりますこと、ご了承下さい。

VOCA展事務局
上野の森美術館 担当 石塚春夫

 

1 推薦委員の選任について

今回の推薦委員依頼者の選出にあったっては、

  1. 過去5年間の全国の美術館で開催された現代美術系企画展に携わった学芸関係者のリスト

  2. 過去5年間の「美術手帖」に掲載された署名記事の全執筆者のリスト

  3. 全国美術館学芸員リスト (全国美術館会議編)

を資料に

  1. 中央に限定することなく、地方の新人作家を発掘する意味を込めて、各地域ごとに推薦委員を配置する

  2. 理論だけでなく、画廊廻り等、若い作家との接点を積極的にとっていると思われる学芸関係者

  3. 推薦委員の固定化を避けるため、可能な限り各回ごとに入れ替える。

を基本理念として、上記リスト(ある意味で膨大な)の一人一人を検討する方法で行いました。実行委員の「誰」が「誰」を選ぶというのでなく、リストの一人一人を全員で協議(欠席者は文書で参加)し、その結果として39名が選任されたというのが実際です。

 本展覧会は、作家の展覧会という一面のほか、ある意味で、全国の学芸関係者の展覧会という側面も持ち合わせています。
 梅津さんのご意見のように、作家だけでなく、推薦委員の選任も含めてすべてを明らかにすると「スッキリ」すると思いますが、作家の推薦が「一人をプラス指向で選出」するのに対し、推薦委員の場合には、前回の推薦委員から外れる「マイナス指向の選出」といった要素も含まれており、推薦委員のすべてについて「理由」を明白にしてしまうことの是非はあると思います。
 さらに実行委員会および事務局では、全国の学芸関係者の業績内容を全て掌握しているわけではありません。先に挙げたリストの中で可能な限り慎重に議論したのであって、全ての面でパーフェクトな選任を行なったとは言えないかも知れません。だからこそ「選任の理由を明白に」という意見も生じると思いますが・・・。
 また、本展覧会は、賞は出すものの、コンクールの意味合いはできるだけ避けたいと考えています。推薦委員の選任理由をも明白に記載するというのは、同じ目的で働いている我々学芸関係者のランク付けとなってしまうのではという危惧もあります。
 しかし、今年のカタログで高階先生が推薦委員の一部に対してコメントを加えたように、今後検討する余地は残されていると思います。

 

2 年齢について

 作家に年齢制限を設けたのは、既成の作家による現代美術展ではなく、無名作家の発掘、若い作家の将来性を求めたためです。
 一方、推薦委員の選任にあたって、40才以下という規定はありませんが、できるだけ若い学芸関係者という要素は考慮しております。
 しかし現代美術系の若い学芸員を選任できない地域もあり、一方で、若い学芸員が若い作家を選ぶという点で、視野が狭まるというような弊害も危惧されます。現段階では、広く、たとえ無名であっても才能豊かな将来性のある若い作家が集う展覧会というのが第一義であり、学芸員の参加は第二義となります。
 また実行委員については、本展覧会発足当初の運営賛同者ということであり、選考委員も含めた人選までも40才以下に限定するとした場合、確かに表面上は「スッキリ」としますが、実際の運営とその結果は一段と難しいものになるのではないでしょうか。

 

3 責任推薦制について

 公式には、「責任推薦制」という表現は使っていないと思いますが・・・。本展覧会の特色は、推薦された作品は、主催者が責任をもって全て展示する(推薦作品を審査し、入選・選外を決めるというようなことはしない。また、推薦者を明らかにする。)という点です。

 さて、展示、カタログ用写真撮影については、原則として作家の立会を認め、例年、半数前後の作家が展示に立ち会っています。
しかし、展示プランについては、主催者に一任していただいています。私どもの美術館は、決して満足できる展示空間とは言えませんし、各作家毎に個別スペースを作る余裕はありません。作家によっては、不満の残る壁面に展示しなければならない事態も生じているのではないでしょうか。
実際の展示では、事前に作家から提出された展示についてのコメントを参考に、個々の作家と話し合って最終的な展示場所を決定していますが、原則的には主催者のスタッフに一任していただきたい事項です。(ワタシはアソコ、オレはココ・・作家との話し合いが紛糾することもありますが・・できる限り作家のコメントを受け入れ、主催者が調整しています)

 *全ての作品が新作であり、主催館のキュレイションによって作家・作品が決められた企画展ではありませんので、実際にどのような作品が集まるかは搬入当日までわかりません。全ての作品が集まった段階で、展示プランの検討となりますが、作品の意図と展示空間の配置は「主催者はできる限りの調整をする」としか言い様がありません。

 

4 平面について

 これが一番難しい点です。
 本展覧会では、平面を絵画と規定しているわけではありません。(時として、絵画の可能性と言った表現でのコメントが選考委員から出されますが、明言をしているわけではありません。)
 かと言って、凹凸のある画面も認められるわけで、2次元の作品、3次元の作品という表現もあたりません。
 あえて言えば、平面=絵画という発想が根底にあり、絵画をひとつの法則で規定せずに不明朗にしたうえで、様々な角度から、あらためて絵画の可能性を探るというのが「平面に限定する」という意味であると私は理解しています。
 ですから、要項記載の基準に適合するものであるなら、いかなる手段、技法、素材であっても「可」と言えます。
実行委員によっては、純然たる絵画を求めている委員もあり、あるいは、より広範な表現方法を求める委員もいるというのが実際です。そのような状況の中で、実行委員会は統一した絵画への認識を定義するのではなく、本展覧会に出品された作品を通し、あらためて平面=絵画の可能性について検討を加えようとしている。
 つまり、「絵画展」という既成のイメージにとらわれまいとする意志が、あえて「平面」という表現となっている・・と私は考えています。

 

 以上、私見ともいえる回答ですが、お許しください。
 特に、4については、あくまでも「私見」です。いままでも実行委員会で語られてきた問題ですが、三者三様の意見があり、あえて「活字」として明記できなかった部分です。

 私は展覧会発足当初から、この展覧会に関わっています。この展覧会の良いところは、フレキシブルな体制という点であり、いままでも回毎に内容を調整してきました。お寄せいただいたご意見も、今後の運営の参考とさせていただきます。


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