もういちど秋を− try to remember
澄んだ空を渡ってくる風と
同じやさしさに包まれて
私たちは佇んでいる
永遠にあの日の秋の中に
『もういちど秋を』は、武田多恵子の3つの詩集「麦の耳」(1986年)「流布」(1993年)「蜜月」(2013年)から20編の詩を抜粋し、1年の季節を巡るように5つのユニットに仕分け、「もういちど秋を」という序章を加えて再構成された映像詩である。武田の詩に、サックス奏者かみむら泰一が音楽、中根秀夫が映像を担当し1年間をかけて制作された。
ひとつの詩はひとつの時間を孕みながら、他のもうひとつの詩とその時間に接続する。詩の中の時間はそれぞれの記憶を持ち、その記憶はひとつの詩という枠を超え、過去とも未来とも自由に接続することが出来る。ひとりの作者の記憶はもうひとりの者の記憶へと接続され、その記憶はさらにまたひとりの別の記憶とつなぎ合わされる。そのようにして、記憶は少しづつそのポジションを変えながら私たちの空間を拡張し、またそれを満たしていく。
* hideonakane | note で映像を公開しています▶︎

このプロローグのみ詩は字幕で示されている。冬の早朝、日の出直前の海で。
武田多恵子
Taeko Takeda (words), Taiichi Kamimura (saxophone), Hideo Nakane (video)
Unit 1
3月の浦和での展示で、試験的に武田(詩)/中根(映像)による「Unit 1」(但し音声無しのバージョン)を公開したが、新たにかみむらの「音」を加えてレコーディングをし、映像も繋ぎ直した新しいバージョン。ここで取り上げた幾つかのモチーフは今後のユニットに繋がっていく。
1-2. 1日の千の秋
1-3. 掌の森(Ⅱ)森の椅子
1-4. 予め失われた恋人たち
武田多恵子 1-1, 1-3, 1-4 『蜜月』 1-2『流布』より
Unit 2
「Unit 2」は物語の展開の場面でもあり、急激に速度を増しながら流れていく章でもある。私も武田の詩について全てを理解できているわけではないし、それは無論不可能だろう。だが映像に於いてその解釈されない部分を解釈されないまま残すのは、ある意味では見る者にとっての自由が残されているわけで、見る者の記憶がそれを補うだろうと思っている。あるいは未解釈とされた部分は別のユニットに接続された時にまた再び語り始めることもあるだろう。
2-2. 劣情No.5 - 猫に
2-3. 接吻試論
2-4. 真夜中の動物園
2-5. 函
武田多恵子『流布』より Taeko Takeda (words), Taiichi Kamimura (saxophone), Hideo Nakane (video)
Unit 3
「Unit 3」に「会期を終えたばかりの美術館は 九月の海に似ている」という詩の一節があり、海に近い鎌倉の美術館で撮影をさせてもらった。この建物も今年3月に閉鎖され、今はただただ懐かしい。映像では「プロローグ」の終盤と3-3.3-5. に少しだけ登場する。
鷗(カモメ)というのはいつまでも見ていて飽きない愛おしい生き物だ。
3-2. 鷗
3-3. 夢の海 '72
3-4. 海の夢 '85
3-5. 麦の耳
武田多恵子『麦の耳』より
Unit 4
『もういちど秋を』では、5つのユニット全体をつなぐ「海」あるいは「鳥」などの言葉が重要な要素となっている。「Unit 3」では、「鷗(カモメ)」が詩の一編としての独立した存在を示していたが、それ以外のユニットでも直接/間接を問わず、カメラは自分の内面と重ね合わせるように「鳥」の姿を捕らえている。今回の「Unit 4」では「丹頂鶴」をめぐり物語が展開する。
「Unit 4」は「冬」をテーマに編まれているが、例えば『冬の麦』のように、おそらく武田自身による「麦秋」という言葉から派生させたイメージとして「ゴッホの7月」を描いた概念的な「冬」もその中に含まれる。「Unit 1」で使用した模型の木も再登場。
4-2. 積雪扉
4-3. 冬の麦
武田多恵子 4-1, 4-3『麦の耳』、4-2『流布』より Taeko Takeda (words), Taiichi Kamimura (saxophone), Hideo Nakane (video)
Unit 5
『もういちど秋を』最終章。扱われるのは抽象度が高い詩篇だが、詩は新たに読み直され、現在の私たちそれぞれの日常に引きつけて考えるべきだろう。今回のプロジェクトではいろいろな「海」の映像を撮ったが、特に福島の海は忘れられない。あなたも忘れられない「海」や「街」があるだろう。
そして「もういちど秋を...」。
5-2. 合歓
5-3. 盗む日(Ⅷ)バイ・バイ・ブラックバード
5-4. 流布
武田多恵子 5-1, 5-3『蜜月』、5-2『麦の耳』、5-4『流布』より