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White Plan

子供が 子供だった頃
ストックを槍に見立て
木に向かって 投げつけた
槍は 今もまだ其処で揺れている
ペーター・ハントケ

『ベルリン・天使の詩』という映画が日本で公開されたのは1988年、今から20年も前のことだ。その翌年には東西分断の象徴であるベルリンの壁が崩壊。やや預言的なヴェンダースの映画を、当時学生だった私はもとよりこの国の多くの者が歓喜を持って迎えたのは、思い返せば時代的な風潮でもあった。何かが変わる。しかし結果的に見れば、そこに私たちが漫然と描いた楽天的な未来像は、それこそ瓦解したのだ。でも今はもう少し別の、そう、天使の話でもしよう。

 

永遠を生き、人々の言葉を集め、歴史を記述し続ける天使には、個人的な時間や感覚の概念が無い。例えば子供の頃の記憶は人間だけが持つもので、つまり天使から見れば、それは人間としての時間、それに加えて人間としての感覚と結びついて想起される現象だということになる。

 

さて、天使ダミエルは壁の街ベルリンでサーカスの女に一目惚れをする。天使の羽根を纏った空中ブランコ乗り。ダミエルは、霊としての自らの存在を放棄することを決意し、壁の西側、ヴァルデマール通りで「人間」として目覚める。新たな生を携え歩き始めたダミエルは、壁に描かれたグラフィティを、その時初めて、文字通り「体験」した。ブルーグレー/ライラック/オーカー/赤/緑/青…。初めて目の前に広がる「色彩」。これこそ人間としての感覚、そして、官能の始まりなのだ。

 

Books Project
Books Project / 1995
Cerulean Blue, Cadmium Red Light, Chromium Oxide Green, Raw Sienna, Ultramarine Violet
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